法的な発注主体を確認する。紹介者と支払者が同一とは限らない。
注意書き
この助言は、本サイトが保持する2021年のライブラリー音楽案件の記録から導いたものです。同じ流れが他の案件でも発生したことを示すものではありません。また、当時の行為について法的責任、意図、個人の過失を判断するものでもありません。
以下で参照する2021年の経過は、いずれも申立人側の通知の要約または確認済みメールスレッドの要約として記録されているものです。事実認定ではありません。原本、非公開の連絡先、アーティストの身元は伏せています。
2021年に記録された経過
この助言が具体的である理由は、以下の順序が記録に残っているからです。契約前に作業が進み、進んだ後に停止が指示され、費用の扱いが後から議論になっています。
| 日付 | 記録された内容 |
|---|---|
| 2020/12/19 | 株式会社ヴァルスが報告者側に対し、株式会社日音が検討していたライブラリー音楽の制作・管理プロジェクトを引き受けられるか打診したとされています。 |
| 2021/03/19 | プロジェクト会議でコンセプト、楽曲数、アーティスト予算のイメージ、スケジュールが話し合われ、3月末までに候補を出すよう求められたとされています。 |
| 2021/04/05 | 報告者側がプロジェクトの楽曲をアップロード済みと伝えて予算の確認を求めた一方、株式会社日音は契約と正式な発注が整うまで作業を中止するよう指示した、と記録されています。 |
| 2021/04/06 | 株式会社ヴァルスが、自らの依頼によって手順の前後に混乱が生じたことを認め、契約はまだ締結されていないものの制作の継続を望む旨を伝えた、と記録されています。 |
| 2021/04/09 | 株式会社日音が著作権契約のひな形を送り、原盤権に関する同意書の様式が続く旨を示した、と記録されています。 |
| 2021/04/19 | 正式な発注の前に、著作権契約の確認、原盤権の同意、コーディネート/ディレクション契約の草案という3つの書類の流れが示された、と記録されています。 |
| 2021/04/24 | ライター確認の作業が行われたことを認めたうえで、正式な作業は契約と覚書の締結後に開始すべきだと述べ、当該アルバムについてコーディネート対価として200,000円+税を提案した、と記録されています。 |
| 2021/04/26 | 以前伝えたコーディネート/ディレクション費用のイメージが社内に正確に伝わっていなかったことを認め、行われた作業に対しては対価を支払うと述べた、と記録されています。認められた作業の分類として、20名のライターの選定、著作権契約および出版契約の状況確認、デモ制作の取りまとめ、デモ10曲分の制作費が挙げられ、それらが1,000,000円+税のコーディネート費に含まれるかが問われています。 |
| 2021/05/24 | 株式会社日音宛ての申立人側通知では、中止指示の前に約20曲が発注され約17曲が納品されていたとされ、総額2,954,197円(うちアーティスト発注費用754,197円)が請求されたとされています。争点があり未確定の金額として記録しています。 |
この経過から読み取れる構造は3つです。書面が整う前に成果物が動いていたこと、停止指示が作業の後に来たこと、費用の範囲が事後に議論になったこと。以下の助言はこの3点に対応しています。
同じ型が今なら触れる義務
2021年の経過にフリーランス・事業者間取引適正化等法を適用することはできません。同法の施行日は2024年11月1日で、それ以前の行為を遡って判断する根拠にはなりません。以下は、同じ順序が今日発生した場合に現行のどの義務が関係するかを示すものであり、当時の行為が違反であったと述べるものではありません。
| 記録された構造 | 現行法で関係する義務 | 条文 |
|---|---|---|
| 取引条件が書面で確定しないまま作業が進む | 取引条件の明示義務。委託後直ちに、業務内容・報酬額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければならない | 第3条第1項 |
| 支払期日が定まらない、受領後に支払われない | 報酬支払期日。成果物を受領した日から60日以内でできる限り短い期間に設定し、その期日までに実際に支払う義務がある | 第4条(第4条第5項を含む) |
| 着手後の一方的な停止、精算のない終了 | 継続的な委託における禁止行為。受領拒否、報酬の減額、返品、不当なやり直しが含まれる | 第5条第1項 |
| 発注側の利益のために無償で行わせる作業 | 不当な経済上の利益の提供要請の禁止 | 第5条第2項第1号 |
| 同種の業務の通常水準を大きく下回る報酬設定 | 買いたたきの禁止。十分な協議なく一方的に著しく低い額を定めてはならない | 第5条第1項第4号 |
これは型の対照です。個別の事案が特定の義務に当てはまるかどうかは、事実関係と契約類型により、弁護士または所管窓口の判断によります。
制度は現に運用されている
上の対照は机上の話ではありません。公正取引委員会は施行後、業種を絞った集中的な調査を行い、指導および勧告を公表しています。ただし、それらはいずれも本記録とは無関係の別事案であり、本記録の当事者とは関係がありません。個別の指導・勧告の一覧と適用条文は、固有名を含まない教材ノートに分離して掲載しています。
本ページは2021年の記録そのものを扱う場所であり、他社の認定事例をここに並べることはしません。両者を同じ文脈で読むことは意図していません。
着手前チェックリスト
以下は着手前に確認する項目です。ひとつでも埋まらないうちに成果物を動かすと、2021年の記録と同じ位置に立つことになります。
権限ある意思決定者を確認する。連絡担当者に最終承認権限がない場合がある。
書面の業務仕様書を取得する。口頭の依頼は範囲が後から動く。
作家連絡を開始する前に報酬を合意する。連絡を始めた時点で第三者への約束が発生する。
外部作家の予算を別枠で定める。コーディネート費に含まれるかを事前に確定させる。
海外送金費用及び税務処理を確認する。実費の先行負担を避ける。
中止時支払又はキルフィーを設定する。停止指示が来た時の精算根拠になる。
別途許諾がない限り、中止後のデモ使用を禁止する。
権利移転を全額支払の完了に条件付ける。
電話又は会議での指示について書面確認を求める。口頭の指示は記録に残らない。
契約書及び発注書の発行責任者を定める。「準備中」は着手の合図ではない。
未使用デモ及び秘密資料の削除又は返却を定める。
取引リスク表
| 論点 | 取引上のリスク | 着手前の防御策 |
|---|---|---|
| 発注主体 | 紹介者と支払者が異なる可能性 | 法的主体の書面確認 |
| 権限 | 連絡担当者に最終承認権限がない可能性 | 権限ある署名者の確認 |
| 業務範囲 | 作業が非公式に拡大する可能性 | 署名済み業務仕様書 |
| 報酬 | 作業開始後に報酬協議となる可能性 | 報酬承認の書面化 |
| 外部作家 | 第三者への約束が発生する可能性 | 承認済み作家予算 |
| 権利 | 権利確認が早期に始まる可能性 | 連絡前の権利条件確定 |
| 中止 | 精算なしで作業が終了する可能性 | キルフィー |
| デモ使用 | 未使用デモにアクセス可能な状態が残る可能性 | 削除及び不使用条項 |
相談先
フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営しています。報酬未払い、契約書がない、修正の繰り返し、ハラスメントなど、フリーランスと発注事業者間のトラブル全般が対象です。相談は無料で匿名でも可能、和解あっせん手続まで行います。
公正取引委員会および中小企業庁への申出も可能です。上に挙げた指導・勧告は、こうした申出を含む情報をもとにした集中的な調査から生まれています。行政上の経路は民事上の請求を代替しません。未払報酬の回収は別個の民事の問題であり、それを支えるのは案件進行中に積み上げた日付つきの書面記録です。
プライバシーと情報源保護
基礎となる通信記録は全文公開していません。個人データ、第三者情報及び通信を特定できる詳細は非公開です。公開要約は、記録された取引構造を説明するために必要と考えられる情報に限定しています。